ひととあやかしが共に暮らすことができる、最後の聖域。四国、高知の山奥にある隠れ里。茂伸(ものべの)――「恐れ」が変質していく中、誰からも恐れられなくなり忘れ去らて、消えようとしていくあやかしたちが、逃れるように集ってくる土地。ものべのに移住したあやかしたちのほとんどがしあわせを掴み、自らを再構築していくなか――しかし、ものべのでもやはり、確たる立ち位置を築けないあやかしもまた、存在します。縄のうれん。京の都で浮かれてすごすものたちの顔に、ざあっと縄のうれん――今の言葉で「縄のれん」をなすりつけ、ひやりと驚かす――ただそれだけのあやかし。その最後の生き残りである、結(ゆえ)。藁縄という存在そのものがナイロンロープやポリエステルロープに取って変わられ。なんとかざあっと脅かすことに成功しても、「? コンビニ袋でも飛んできた??」と全く恐れてもらえなくなり。どんどん弱っていくいっぽうの結はなんとかものべのへの移住に成功し。けれど――やはり――ものべのでも結は……藁縄は、藁ぞうりは、藁布団は――時代遅れの存在でした。縄を綯っても、わらじを編んでも、なかなか売れない。人とあやかしがともに暮らしていくためには、人のたつき――お金を稼ぐことがどうしても必要です。そのために結が為し得る唯一の手段が、完全に時代おくれになっている――絶望的な状況であるといえましょう。それでも結はあきらめず、人に受け入れてもらうため、人との縁を綯うために、街頭に立ち、必死で声をあげ続けます。「草履~ 草履~ 稲藁草履はいかがおす……」

イラストレーター : はすみ

シナリオ : 進行豹